愛媛県保険医協会は、昨年12月2日から従来の保険証の新規発行が停止されたことによる医療機関におけるマイナ保険証の影響実態調査アンケートを実施した。アンケートは、協会にFAX番号が登録されている医療機関401件に3月7日送信し、3月15日までに病院10件、医科診療所49件、歯科診療所15件の合計74件から回答を得た。(回答率18.5%)

資料 2024年12月2日以降のマイナ保険証利用に関わる実態調査結果

  1. 直近の利用率
     マイナ保険証の利用率は、10%未満が最も多く7%で3割以上は21.6%。
  2. 窓口業務の負担
     「とても負担を感じる」23.0%、「負担を感じる」58.1%のあわせて8割以上の医療機関がマイナ保険証利用に関して負担を感じ、「負担が減った」は僅か2.7%という現状が浮かびあがった。  つまり、現行のシステムが医療現場にとって大きな負担となっている一方で、改善される部分はまだ限られていると言える。医療機関の窓口には異なるメーカの機器が設置されていることが多く、使用説明の時間、顔認証の不具合、暗証番号忘れなど医療機関側に非の無い事情で職員の手間がかかり、受付に時間を要する事案が発生している。
  3. トラブル事例
    「●が出る」が56.8%と最も多く、次いで「カードリーダーの接続不良・認証エラー」51.4%、「資格情報が無効」32.4%とオンライン資格確認導入時に起こっていたトラブルは何ら解消されていない。マイナンバーカードの有効期限は10年とされているが、マイナ保険証として使用するための電子証明の有効期限は5年、既にマイナンバーカードの有効期限切れが、26件(35.1%)と比較的多く報告されている。
     他人の情報が紐づけられていた(3件)や限度額認定の誤り(3件)などの件数は少ないものの、発生時のインパクトは大きいと考えられる。
     発熱患者は、感染予防の観点から院内に入れず、顔認証(マイナ保険証の読み取り)を行えなかったため、他院での受診を促すした事例があった。
     正月休みなどで事務スタッフが不在、レセコン(医療機関のコンピュータシステム)も停止中でマイナ保険証が使用できず、保険証を持参していない患者の受付ができず、診療を断ったケースがあった。
     このように、発熱外来の運用方法や休日・休暇中の体制といった実際の現場事情と、マイナ保険証の運用ルール・機器設置状況との間にギャップがあることが浮き彫りになった。
  1. トラブル時の対応
     「その日に持ち合わせていた健康保険証で資格確認をした」が50件(67.6%)と最多。マイナ保険証の読み取りやオンライン資格確認ができない場合、結局従来の健康保険証で対応する事例が依然として多い。25件(33.8%)が「前回来院時の情報をもとに対応」しており、データベースやカルテ履歴から過去情報を参照することで対応している様子がうかがえる。「資格情報のお知らせ」で確認したのは、ごくわずかの13.5%。コールセンターやレセコンメーカーへ相談するケースも合わせて17件(9件+8件)あるが、すぐに解決できるとは限らず、問い合わせの労力がかかっている事も推察される。
     7件(9.5%)では「いったん10割負担いただいた」としており、資格確認ができないため、患者に一時的に全額を負担してもらう対応が行われている。医療機関と患者の双方に負担がかかっている状況がうかがえる。
  1. マイナ保険証のメリット
     マイナ保険証の利用に関してメリットを「感じない」回答が最も多く、約半数(45.9%)近くを占め、「どちらともいえない」「感じる」は同数で、約4人に1人程度である。回答者全体のうち、はっきり「感じる」と答えた人は3割弱にとどまる。
     システムの正確性向上や業務の効率化、情報の一括管理といったメリットが評価されている一方で、操作手順の手間や利用者負担、さらには政策の背景に対する疑念も示されている。
     この結果からは、多くの回答者が「感じない」もしくは「判断がつかない」と答えており、何らかのメリットや変化を「はっきりと実感している」人は限定的であることがうかがえる。
  1. 保険証の復活
     従来の保険証について「復活し併用できるようにすべき」67.6%と7割近くの医療機関が、従来の保険証と併用することを望んでいる。現行のマイナ保険証だけでは不便・不安を感じている層が多いと推察される。 一方で「どちらともいえない」が19件(約25.7%)、「復活を望まない」が少数の5件(約6.8%)で従来の保険証に戻さなくてもよいと考える人は全体の7%ほどであり、完全なマイナ保険証への移行を望む声は少数派と言える。「復活し併用」希望が圧倒的に多く、約2/3の回答者が「従来の保険証の復活とマイナ保険証の併用」を望んでいる。「どちらともいえない」が約1/4で判断を保留している層も一定数存在し、マイナ保険証の今後の改善状況や運用実績を見極めたいという心理がうかがえる。マイナ保険証利用のメリットを感じていると回答した医療機関の半数でも「復活し併用できるようにすべき」と回答している。
     この結果から、医療現場や利用者にとっては、マイナ保険証単独の運用よりも、従来の保険証との併用を求める声が依然として根強いことがわかる。
  1. まとめ
     マイナ保険証は一部のメリットを認められる一方で、操作上の煩雑さやトラブル対応、システムの整合性など、多くの現場で負担となっていることが明らかである。医療機関側では、利用の円滑化とトラブルの改善、さらには従来の保険証との併用体制の検討が求められている。
  • 機器・システムの不具合と操作の煩雑さ
    繰り返し指摘されているエラーや表示問題、操作手順のばらつきが、患者さんや医療機関の負担を大きくしている。
  • 利用者の操作理解の不足
    説明が必要な事例が多く、暗証番号の忘却や操作の未習熟が業務効率を低下させ、待ち時間や混雑を招いている。
  • 業務プロセス全体の遅延
    機器の故障や操作ミスによる待ち時間、連携不足による追加手続きなど、全体として受付・診療の流れに支障をきたしている。
  • システム連携およびコスト面での課題
    レセコンとの連携不足、保険情報の更新遅れ、システム導入・維持費用など、運用上のコストや連携体制の強化が求められている。